俺は、ずっと長いこと、おまえを俺のものにしたいと思っていた。
気付いていただろう。
おまえは、俺を恐がっていた。

だが、あの時、闘いで傷付いたおまえを見た時、俺は思ったんだ。
俺のものにできなくてもいい。
ただ、おまえを、俺以外の誰かに奪われるのだけは我慢ならない、と。

俺は、あの時、正気じゃなかった。
あの時、俺は、おまえの目が綺麗すぎるから、俺以外の誰かが俺からおまえを奪おうとしているのだと、何の脈絡もなく思い込んだ。
そして、子供の頃に聞いた『雪の女王』の話を思い出した。
悪魔の鏡の破片が目に入ったせいで、綺麗なものが見えなくなってしまった子供の話だ。

綺麗なものが映らなくなったら、おまえの目も、その輝きを失うだろう。
そうすれば、おまえが誰かに奪われることはない。
そう思ったら、俺は、おまえの目を傷付けずにいられなくなった。
おまえの目を見えなくしたのは俺だ。

だが、おまえの目を傷付けてから、俺は気付いた。
おまえが綺麗なのは、目だけじゃないってことに。
だから、隠すしかないと思ったんだ。

今思えば、本当に馬鹿げている。
だが、あの時は、本当にそう思った。
俺以外の誰もおまえの存在を知らなければ、誰も、俺からおまえを奪うことはできないと。

俺が怖れていた、“俺以外の誰か”は、“神”や“死”だったのに、俺はあの時、本当にそう思ったんだ。

すまない。
俺は、おまえを自分だけのものにしようとして、こんなことをしたんじゃない。
俺はただ――おまえが消えてしまうことが、恐かったんだ。






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