「瞬っ、ちょっと待てっ!」
「氷河……?」

オーディオルームを飛び出て、光速の動きで瞬を追った俺は、自室に入ろうとしている瞬を、そのドアの前で捕まえることができた。
瞬が、殺気立った俺の形相に驚いてしまったらしく、意識してはいないんだろうが、僅かにあとずさる。

それでも、すぐに心配そうな顔になって、瞬は俺に尋ねてきた。
「氷河、どうかしたの?」

『どうかしたの?』と訊いてくる瞬の表情がやけに可愛い。
じゃない。
違う、今は瞬に見とれてる場合じゃない。

しかし、ちょっと待て、自分!
俺は、どうやって瞬の誤解を解けばいいんだ !?

ここで泡を食って、俺が好きなのはおまえなんだと瞬に言ってしまったら、俺の目指す完璧な愛の告白ができなくなっちまうじゃないか!
いや、でも、とにかく、何でもいいから、何か言って、俺は瞬の誤解を解かなきゃならない!

大慌てに慌て、混乱しまくった俺は、次の瞬間、なぜか、
「瞬っ、おまえのケータイの番号を教えてくれっ!」
と叫んでいた。

「え?」
瞬が、まるで脈絡のない俺の大声に、瞳を見開く。
それから、瞬は、困ったように小首をかしげた。
「僕、携帯電話なんて持ってないけど……」

そーいえばそうだった。

「じゃ……じゃあ、気が向いたら、また俺と会ってくれ!」
「氷河……?」

えーい、同じ家に暮らしてて、いやでも毎日顔を合わせる相手に、俺は何を言ってるんだ!
俺はアホか !?

「氷河、もしかして、どこかに行っちゃうの?」
俺の間抜けを極めたセリフを真に受けた瞬が、不安そうに尋ねてくる。

「いや、そうじゃなくて……!」
違う!

「氷河?」

ああ、どうすればいいんだ、こういう時 !?
瞬に誤解させたまま置くわけにはいかないし、かといって、ここで本当のことを言うわけにもいかない。
俺の額には、脂汗がにじんできていた。

「氷河、具合いが悪いの?」

悪いっ!
悪いぞっ!
悪いのは体調じゃないが!

「横になった方がよくない?」
俺が横になる時は、おまえも一緒だっ!
違う、それは、告白した後の話だ。

そうじゃなくて、俺が好きなのはおまえだけで、でも、ここでそれを言っちまったら、俺の計画していた完璧な恋の告白ができなくなるわけで、だから、いったいどうすればいいんだ、俺はーっっ !!??






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