痛む頭を押さえながら、俺は階下にあるダイニングルームに降りていった。
星矢と紫龍がそこにいた。
瞬は、ここにもいない。

俺の姿に気付くなり、星矢が、かぶりつこうとしていたトーストを皿の上に放り出して、言った。
「――俺、おまえの友だちしてるのが恥ずかしくなったぜ」

「まったくだ」
紫龍が相槌を打つ。

朝の挨拶もなしに無礼なことを言ってくる星矢に、だが、俺は、腹を立てることさえ思いつかなかった。
昨日の記憶が全て失われていることが、俺をひどく心許ない状態にしていた。

「俺はいったい……」
どうしたんだ? ――と尋ねる前に、紫龍が、軽蔑しきった目を俺に向けてきた。
「瞬を押し倒そうとしたそうだな?」

「瞬の奴、びっくりしてさー。つい本気出して、おまえをネビュラストームでフッ飛ばしちまったんだと」
星矢の説明で、俺は、自分の身体のあちこちが痛む理由を知ることができた。
「急にものすごい音がしたから何ごとかと思って、俺たちが駆けつけたら、おまえ、半死半生の有り様で、誤解がどーしたの、俺が好きなのは瞬だけだだのって、うわ言みたいにぶつくさ言ってるし、それ聞いて、瞬は恥ずかしがって部屋に閉じこもっちまうし」

「結局、俺たちが、おまえをおまえの部屋まで運んでやったんだぞ。ありがたく思え」

「…………」
世話をかけてしまったらしい星矢と紫龍には申し訳ないが、俺には、二人に感謝する気持ちはこれっぽっちも湧いてこなかった。
否、そんな余裕もなかった――というのが正しい。

星矢と紫龍も、本気で俺に感謝の言葉を期待していたわけではなかっただろう。
「おまえ、正真正銘の馬鹿だな」
「男としても最低だ」

「…………」
俺には、返す言葉もなかった。






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