「おまえ、自分が幾つになると思っているんだ !? もうすぐ30だぞ、30!」

星矢は、かなり酔いがまわっているようだった。

氷河がまもなく30になるということは、無論、星矢もその年齢に近付いているということである。
十代の頃には、この星矢が大人になるなどということも、その姿も、氷河には想像すらできなかったのだが、時というものは誰の上にも公平に降るものらしい。
――亡くなってしまった者を除いて。

「瞬の2倍も長い時間生きてきて、それなのに、おまえは――」

改めて考えてみれば、不思議な気分にならざるを得ない。
かつては常識はずれな力を駆使して果てのない闘いを闘い続けてきた者たちが、今はその力を使うこともなく、それまで彼等が守ってきた人間たちの中に紛れ、“普通の”生活を送っている――のだという事実に。
アテナの聖闘士たちが普通の人間と同じように大人になり、普通の人間の男たちと同じようにスーツを着て、バーで酒を飲み、管を巻いている図など、氷河は、十数年前には考えたこともなかった。

もっとも、その場で実際に管を巻いているのは星矢ひとりきりで、氷河は星矢のがなり声に辟易し、紫龍は無言でグラスを口元に運んでいるだけだったが。

「勝手に水増しをするな。瞬が死んだのは16になってからだ。俺はまだ、瞬の倍も生きていない」
「じゃあ、2倍近く生きてきて、その間、誰にも会わなかったのかよ? 瞬より大人で、瞬より分別があって、瞬より優しくて、瞬より利口で、瞬より綺麗な女の一人や二人――いや、もう、この際、男でもいいけどよ」

最後に付け加えられた1センテンスに、氷河は少しく顔を歪めた。
彼には断じてそんな趣味はなかった。
瞬が――瞬だけが特別だったのだ。






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