Divine Intervention I






個展は盛況だった。

それは、最初からわかっていた。
だから、俺は少しも嬉しくなかった。

盛況は、当然のことだ。
なにしろ、この個展には、某飲料水メーカーと某々映画会社と某々々出版社がスポンサーについていて、奴等は散々この個展の宣伝を打ってくれていたんだからな。

今日は招待客しか入れないことになっているが、それでもこの人出だ。
スポンサーたちがバラまいてくれたチケットを持った一般客が押し寄せてくるに違いない明日からの混乱を考えると、今からうんざりしてくる。
この美術館は、明日には、到底絵画を鑑賞するための場ではなくなるだろう。

そして、俺は、またしても、
『あの時代錯誤で下品な肖像画家が!』
と、常日頃この美術館で閑古鳥を鳴かせている常設作品の画家たちの恨みと妬みを買うことになるわけだ。
まあ、奴等の言うことは紛れもない事実だから、俺には反論のしようもないんだが。

ちなみに、今回の個展の目玉は、これまでスキャンダルの一つもなかった清純派女優の裸体画。
この女優が、某清涼飲料水のCMタレントで、主演を務めた某々映画の公開が今月末に控えていて、来月には、某々々出版社からの写真集の発売が予定されている。
俺の個展は、その女優の売名・宣伝活動の一環にすぎず、その女優──もう、名前も忘れた──は、この個展をもって、めでたく、この俺に絵を描かせることができた一流女優の仲間入りということになるわけだ。

一流も何も、俺は謝礼金の高い順に、絵を描いているだけなんだがな。


いつもは静かな美術館の特設ホールに、普段は絵なんぞ見たことも描いたこともない有象無象の輩が、妙に忙しそうな顔をしてうろついている。

この馬鹿げた茶番の狂言回しが、他でもない俺自身だということに絶望的な気分になって、俺は、ホールの隅にあったソファに身を沈めた。






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