シュンは神を信じていた。 いないとは思っていなかった。 ヒョウガの許にラマッスの聖鳥が飛んできた時には、やはり神はどこかに存在し、見るべきものを見ているのだという確信を深めさえした。 ヒョウガには彼の理想があり、その理想を実現するための意欲があり、そうできるだけの能力を彼は持っていると、シュンは思っていた。 だが、シュンは、自分自身を、神に顧みられるような存在だと思ったことは一度たりともなかったし、それを不満に感じたこともなかった。 ヒョウガほどの美しさも、覇気も力も、自分には備わっていないのだから──と、シュンは自分自身の凡庸に納得していたのである。 神の愛など、シュンにはむしろ恐怖でしかなかった。 「やっ……」 掛け布は既にどこかに投げ捨てられていた。 身に着けていた服を剥ぎ取られ、闇の中の神の肌が、直接シュンの肌に重なってくる。 シュンは、いったい自分がどうすればいいのかがわからずに、全身を強張らせた。 今、まるでその感触を確かめるように自分の肌をなぞっているものが、本当に神なのだとしたら、その手を払いのけるわけにはいかない。 神の意に背いたら、この国にどんな災いが降りかかることになるかわからない。 だが、 人間がこの塔の部屋に入ることは困難なのだとしても、絶対に不可能なわけではないだろうし、それが人間でないにしても、悪霊の類ということも考えられなくはないではないか。 そして、だが、そんなことより──。 シュンは、“それ”が恐かった。 本能的に、恐かったのである。 部屋全体を包む黒い闇が恐かった。 その闇の中で、正体の知れない者に、くまなく身体をまさぐられることも恐かった。 シュンが自分自身でも触れるのにためらいを覚えるようなところに、躊躇なく手を伸ばし、シュンの身体を変えようとしていく“神なのかもしれないもの”が、シュンは恐くてならなかったのである。 恐怖のために身体がすくんで、闇の中で蠢くものを払いのける勇気も湧いてこない。 それでも、シュンは、必死の思いで、喉の奥から、掠れた声を絞り出した。 「ネブ神様……?」 返事はなかった。 代わりに、その闇の中のものは、シュンの肩に唇を押しつけてきた。 「本当にネブ神様なら、お……姿を……」 “それ”は、『本当に神なのなら』人間ごときの問いかけに答える必要はないと思っているのかもしれなかった。 闇は、シュンの問いには何も答えず、ただ何かを急いているように、そして、もどかしげに、ひたすらシュンの肌に舌と唇とを這わせていた。 「あ……いや……」 “神”から逃げてはいけないのだと思うほどに萎縮し、意識せずに逃げかけていた身体を、シュンは寝台の中央に引き戻された。 そして、仰向けにされ、脚を開かされた。 「……!」 ──暗闇の中に、誰かがいるのはわかる。 闇の中から伸びている手がシュンの足首を掴み、指先や舌のようなものが肌に触れる。 シュンの膝を割って、その間に入り込んできさえする“それ”の、だが、全体像が見えない。 シュンは、自分が、得体の知れない闇に捕まってしまっているような錯覚を覚え始めていた。 |