シュンに覆いかぶさっている闇の表層は、シュンほどにやわらかくはないが、人と同じ感触を持った熱い肌だった。 息は速く、獣のように荒々しい。 力はシュンよりはるかに強かった。 混乱しているシュンには、自分の身体のそこここに忍び込んでくるそれが、彼の指なのか舌なのか、彼が人間の身体をしているのかどうかすら、わからないような有り様だった。 シュン自身が、彼に喘がされていた。 シュンは、その闇に逆うことはできなかったし、逆らうわけにはいかなかった。 だが、これは、神ではないかもしれない──のだ。 シュンは、必死の思いで、懇願した。 「お願いです、お姿を見せてくださ──」 唇で、その声を遮られる。 そして、シュンは、そのまま両の脚を抱えあげられた。 自分の手すら見えない闇の中で、シュンの脳裡にぼんやりと結ばれた交合のイメージは、あまり美しいものではなかった。 脚を大きく広げられ、腰を抱えあげられ、まるで闇でできた身体に押しつぶされるように、不様で。 「や……やだ……!」 シュンは、彼の手を払いのけようとした。 そうするために、初めて実際に、自分の手を自分の意思で動かす。 だが、その手は、神らしきものの手に、難なく押さえ込まれてしまった。 「それなら……本当に神様なら、せめて姿を見せて……!」 闇への恐怖が、逆にシュンから恐れを奪い去っていたのかもしれない。 シュンは、“神”にそれを要求し、だが、神はシュンに何も答えなかった。 シュンの追い詰められた様子を楽しんでいる獣が猛っているように、闇の中の“それ”の吐く息が荒くなる。 獣の爪が今にも自分の心臓に突き立てられるような予感に、シュンは襲われた。 「ヒョウガ……」 シュンは、それ以上、正体の知れない闇への恐怖に耐えられなかった。 「ヒョウガ、助けて……っ!」 シュンがヒョウガに救いを求めて叫んだその瞬間に、シュンは闇に貫かれていた。 ヒョウガを呼ぶ声は掠れ、途切れ、そのためなのか、シュンの反抗は、神の機嫌を損ねることはなかったらしい。 救いを求めるシュンの声など聞こえていないかのように、闇の中の神は、シュンの身体の中に、シュンの身体を貫いたものを、力任せに捩じ込んでくる。 傍若無人な暴力にさらされ、その痛みから逃れるために、シュンは必死に彼から身を引こうとした。 だが、すぐに、その身体を引き戻され、逆に、更に深い交わりを強いられる。 (や……やだ……こんな……) 例えば、神の愛を受け止めるということは、暖かく優しい空気にふわりと包まれるようなものなのではないかと、シュンは思ったことがあった。 だが、シュンの身に降ってきたそれは、まるで違っていた。 身体の中心を通って頭の芯にまで達したナイフが、それでもまだシュンの身体を切り刻んでいる――それは、そんなふうな行為だった。 室内に立ち込めた乳香の香りがきつくて、気が遠くなりそうになる。 人と人の交わりも、実際にはさほど美しいものではないらしいことは聞いていた。 しかし、これは、人と人の交わりよりも醜い行為なのではないかと思う。 闇は、幾度もシュンの中に押し入り、引いてはまた打ち込み、それがいつまでも続く。 それが、いつまでも続いた。 神なのだとしても耐えられない。 シュンは、声を押し殺すための努力をやめ、ついに悲鳴をあげた。 |