バビロンの都の上で輝く月がまた、真円に近付きつつあった。 「ヒョウガ、すぐ近くまで来ているそうなんです。明日の午後には、バビロンの街に入るって!」 その知らせを聞いた日の夜、シュンは、“彼”を迎えるために部屋の窓を閉じることを、かなり遅い時刻になるまで忘れてしまっていた。 ヒョウガの無事を知らされたシュンの目には、いつもは冷たく感じられる月の光も暖かいものに変わったような気がして、バビロンの街の果てを見詰めていれば、今にもヒョウガの姿が月の光の中に現れるような気がして、闇だけでできた部屋に戻ることが、なかなかできなかったのである。 「ナブ神様が守ってくださったんでしょうか? ありがとうございます!」 懸命に抑えようとは思うのだが、どうしても声が弾んでしまう。 “神”は、彼の配偶者が、自分以外の男の無事に狂喜していることに、だが、機嫌を損ねた様子は示さなかった。 彼は、その夜も、いつも通りに彼の配偶者を愛し、そして姿を消していった。 |