シュンは、ヒョウガの手から逃れるためというよりは、ただ喉を押さえつけられる苦しみから逃れるために、首を左右に振った。
「そんなはずない……。だって、ヒョウガがエルサレムに向かってからもずっと、ナブ神様は僕を──」

「それが偽物だと言っているんだ!」
より正確に言うなら、それは、偽物の偽物だった──のだろう。

ヒョウガの、まるで殴りつけるような愛撫に耐えて、シュンは必死に彼に訴えた。
「でも、本当に、ナブ神様は、それまでと……」

ヒョウガが兵を率いてこの城を出ていく前と後とで、シュンを抱きしめてくれていた人が入れ替わってしまっていたとは、シュンにはどうしても思えなかった。
その二人は、同じ温もりと同じ匂いを持っていて、同じように優しくシュンを愛撫し、同じように激しくシュンを求めてきた。

初めてこの部屋で夜を過ごした時と、二度目に過ごした時。
その時以外に、ある一夜とある一夜の間に違和感を覚えたことは、シュンは一度もなかったのである。

しかし、ヒョウガは、シュンを他の誰かに盗まれたものと決めつけて、いきりたっていた。

彼は、乱暴な仕草で、シュンに身体を開かせた。
怒りのせいで猛り狂っているものが、彼を急かしているらしい。
「だが、それは俺じゃない! どこか、違っていたはずだ! 体格か、匂いか、愛撫の仕方、キスの仕方、それとも、これの大きさか !? 」

初めてシュンが“彼”を受け入れさせられたあの夜よりも容赦なく、それはシュンの中に突き立てられた。
シュンが、声のない悲鳴を、月明かりの部屋に響かせる。

「何もかも同じはずがないじゃないか! 俺はその頃、エルサレムの瓦礫の中で、おまえを思っていたんだから!」
「……ヒョ……ガ、いや……痛……」
「誰なんだ !? 言え!」

シュンが苦痛に苛まれていることにすら、ヒョウガは気付いていないらしい。
彼は、自身の怒りに任せて、シュンの悲鳴も涙も無視し、彼自身をシュンの中に捩じ込み続けていた。

やがて、既にそれに馴染んでしまっていたシュンの身体とその内部が、シュンの心を無視して、ヒョウガを喜ばせるために蠢き始める。
そして、最後には、シュン自身もヒョウガに責められることに陶然としてきていた。

「誰なんだ、誰が、俺からおまえを……」
「あ……ヒョウガ……」

ヒョウガが、自分を不要と切り捨てたわけではなかったこと。
“神”が、初めての夜にひどく乱暴だったことと、あの夜以降、シュンが戸惑うほどに優しく、“彼”が変わってしまった訳。

ヒョウガに責められ、喘ぎながら、シュンは初めて、やっと理解していた。

ヒョウガが、シュンの身の上に起きたことを知っても、シュンの許を訪ねてきてさえくれなかったのは、彼が全てを知っていたから──すべては、彼のしたことだったから──だったのだ。

シュンがただヒョウガの側にいたくてしたことが、ヒョウガにそこまでのことをさせてしまったのだということも。

(でも、ヒョウガ、僕は……)






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