「? 誰だ、あれ」
「沙織さんのおトモダチ……のようだが」
「へー。沙織さんに同性の友だちなんてもんがいたんだ?」

怒り心頭に発している月の女神を無視して、星矢が鋭いところを突いてくる。
女神たる沙織の周囲には、“お友だち”などというノドカなものは存在しない。
アルテミスは無論、沙織のオトモダチなどという穏やかなものではなかった。

沙織のオトモダチではないアルテミスは、自己紹介もせずに、アテナの聖闘士たちの前で癇癪声をあげた。
「仮にも処女神を守る聖闘士が、青カカカカカカカ、ええい、言葉にするのも汚らわしいわっ!」

「いや、結局、デキなかったんだが。なに青筋立ててるんだ? 悔しがるのは俺の方だろう、この場合」
氷の聖闘士であるはずの氷河が、実に見事に火に油を注ぐ。
アルテミスの怒りの炎は、彼女の怒りの原因を全く解していない氷河のその一言で、更に大きく燃えあがった。

「こここここここんな汚らわしい男が聖闘士だなんて、世の中間違ってるわっ! アテナが許しても、この私は許さない。一生、青カカカカカカカカなんてできないように、このアルテミスが、月に代わってお仕置きよーっっ !! 」

「この女、頭がおかしいのか? どう考えても、番組が違うんだが」
氷河は、更にどくどくと油を注ぎ続ける。

氷河に油を注がれたアルテミスはといえば、番組が違うことなど意に介さず、燃えあがる自身の怒りに身を任せ、そのまま我が道を突っ走ろうとしていた。
すなわち、彼女は本当に、月に代わってのお仕置き態勢に入っていたのである。

狩りと純潔を司る女神アルテミスが、鋭く、虚空に右手を一閃させる。
途端に、氷河の姿は、その場から消えていた。
その事態に驚き入っている星矢たちの目の前を、一匹のトンボがすいーっと 横切っていく。

それが、青カン(未遂)男の成れの果てだと気付くまでに、星矢たちはかなりの時間を要した。

「ほーっほっほっほっほ! これでもう悪さもできないでしょう。そんなに青カカカカカカがしたかったら、つがってくれる赤トンボでも探すことね!」
「あ……あ……あ……!」

アルテミスが勝利の咆哮を辺りに響かせるのと、声を失った瞬がその場にばったーん★ と倒れるのがほぼ同時、だった。






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