アルテミスの作った結界が解け、99匹のトンボたちがみな、秋の空の中に飛び散っていく。
あとに残されたのは、半月振りに人間の姿に戻った氷河と、その氷河の胸の中で子供のように泣きじゃくる瞬と、彼等のふたりの友人と、わなわなと全身を震わせている女神と、そして、冬の訪れが近いことを知らせる薄水色の晩秋の空だけだった。

「瞬、なぜわかったんだ」
「僕が具合い悪くなってるのを見たら、氷河は、僕からなるべく遠ざかろうとしてくれるってわかってたもの。氷河は……普段は滅茶苦茶強引なくせに、僕が弱ってる時には、優しすぎるくらい優しいから」

多分、それはのろけ、だったのだろう。
そののろけに、だが、星矢は、むしろ感心したような顔になった。

「数ミリグラムの脳みそしかなくて、そーゆー判断ができるのかよ?」
「つまり、氷河の瞬への気持ちは、理性や知性でなく、本能でできているとということだな」
「そゆことか」

納得していいことなのかどうかの是非はともかく、紛れもない事実として、星矢は、紫龍の出した結論に心から納得した。

これは愛の奇跡などではなく、氷河と瞬の愛と本能が辿り着くべくして辿り着いた、当然の帰結なのだ――と。






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