絵の中の女性が、泣いているように見える。

意識を失い、ヒョウガの放ったもので汚れているシュンの姿を見て、ヒョウガは初めて、してはいけないことをしてしまった自分自身に気付いた。

ぐったりしているシュンの身体を抱きあげ、彼の部屋に運び、寝台に横たえる。
仮にも一国の王のすることとは思えなかったが、ヒョウガは、シュンの身体を綺麗にし――上辺だけ――白い掛け布で、その身体を覆った。
調度らしい調度のない質素な部屋の寝台で、シュンの寝顔はひどく頼りなげに見えた。

無論、ヒョウガは、後悔したのである。
怒りに任せて自分がとってしまった行動を。
シュンがたとえ自分を恋してくれていなくても、だからといって、嫌われ怯えられることに泰然としていられるほど、ヒョウガは人としての心を失っていなかった。

それ故に――意識を取り戻したシュンに、ぼんやりとした目で、
「あれは何」
と尋ねられた時、ヒョウガは一瞬、歓喜の感情さえ覚えたのだった。

シュンは、“それ”の意味を知らないのだ――と。
互いに求め合ってのことなら、愛情の発露であろうが、それが一方的に行なわれた時、人間の醜さを露呈するものでしかない、その行為の意味を。

シュンに蔑まれ嫌われるようなことにはなりたくない――その一念で、ヒョウガはシュンを偽った。
「あれは……おまえは知らないかもしれないが、俺がおまえを好きだからすることで、だから、つまり、そういう――痛かったか。乱暴にしてすまなかった」
「悪いことじゃないの」
「ああ」
弁解どころか説明にもなっていないことを、ヒョウガは言葉に詰まりながら、シュンに告げた。

シュンは、だが、それだけで納得したらしい。
ヒョウガがシュンの髪に手を伸ばすと、ヒョウガに貫かれた時の衝撃と痛みを思い出したのか、シュンはびくりと身体をすくませた。

だが、なだめ労わるようなキスひとつで、シュンはヒョウガに微笑を見せることさえしてくれたのだった。






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