その日は夕食もとらずに、ヒョウガはシュンを自室のベッドの中に引き入れた。 ヒョウガが目覚めたのは朝方になってからで、いつもならヒョウガの隣りで小さく丸くなって眠っているシュンの姿が、そこにはなかった。 ベッドの上に上体を起こして、ヒョウガが室内を見回すと、シュンは、昨夜ヒョウガに取り除かれたブラウスを羽織り、ヒョウガの机の肘掛け椅子に座り込んでいた。 「シュン? どうしたんだ?」 シュンの表情が、妙に沈んでいる。 ヒョウガはベッドから起き上がり、身仕舞いを整えながら、シュンの側に歩み寄り、そして、その頬に触れようとした。 途端に、 「触るなっ!」 という、鋭いシュンの声が飛んでくる。 「シュン?」 滅多に声を荒げることのないシュンのその剣幕に驚いて、ヒョウガは目をみはった。 ヒョウガに向けられているシュンの瞳は微かに潤んでおり、その視線はヒョウガを睨んでいた。 「どうしたんだ」 シュンを怒らせるようなことをした記憶が、ヒョウガにはまるでなかった。 昨夜もシュンは、呼吸の仕方を忘れるほど激しくヒョウガに攻められて――つまりは、至極満足して眠りに就いたはずだったのだ。 「シュン、何を怒って――」 「可愛い人を隠してた!」 シュンの声が、ヒョウガの言葉を遮る。 ヒョウガには、シュンが何を言っているのか、皆目見当がつかなかった。 「何のことだ?」 「その机の抽斗の中に……!」 「抽斗……?」 抽斗の中に、シュンを怒らせるような何を隠すことができるというのだろう? ヒョウガには、全く心当たりがなかった。 ヒョウガの戸惑いをよそに、シュンがその瞳から涙を一粒、膝の上に零す。 それからシュンは顔を伏せ、くぐもった声でヒョウガに訴えてきたのである。 「恐かったのに……! 痛かったのに! でも、ヒョウガのすること嫌がったら、ヒョウガが僕のとこに来てくれなくなるかもしれないって思って、僕、一生懸命我慢したのに! なのに、ヒョウガ、あんな可愛い人を隠してた!」 シュンが何を言っているのか、ヒョウガには本当にわからなかったのである。 この机の抽斗の中にあるのは、昨日ヒョウが慌ててしまい込んだ鏡と、数枚の書類だけのはずだった。 そのはずだと、再度記憶の糸を辿りかけた時、ヒョウガはシュンの言う『可愛い人』の正体を理解した。 シュンは、鏡に映ったシュン自身のことを言っているのだ――と。 |