ヒョウガは笑った。
声をあげて笑うのは、久し振りだった。

シュンに声を荒げさせたものは鏡――だったのだ。
鏡というものを知らなかったシュンは、鏡に映った自分自身に――どうやら嫉妬しているらしい。
これが笑わずにいられるだろうか。

自称未来の大公妃には妬いてもくれなかったシュンが、自分自身に妬いている――。
そう思った途端に、ヒョウガは、シュンが自称未来の大公妃に嫉妬を覚えなかった訳をやっと理解した。

シュンが彼女に嫉妬しなかったのは、彼女がシュンにとって嫉妬するほどのものではなかったからだったのだ――と。
それはそうだろう。
彼女たちが愛しているのは、バーデンの王としてのヒョウガで、ヒョウガ自身ではない。
ヒョウガもそれを承知している。
シュンは、彼女に焼きもちを焼く必要などなかったのだ。

それに反して、シュンが覗いた鏡の中には、おそらくシュンが嫉妬せずにはいられないほど可愛らしく、人を恋している瞳の持ち主が映っていたに違いない。

やっと見付け出した“希望”が、自分の望むように存在してくれないことに、ヒョウガはずっと苛立っていた。
だが、ヒョウガがやっと見付け出した一本の弦は、決して切れてなどいなかったのだ。






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