楽園伝説 I






俺がその島に上陸したのは、12月も間近に迫った、ある晴れた日の午後だった。

南米エクアドル沖、赤道直下の太平洋上に浮かぶ、名もない小さな島。

エクアドル共和国に属しているが、島自体はある日本人の所有に帰している。
国際保護管理下にあるガラパゴス諸島が近いせいもあり、滅多なことでは人は足を踏み入れない──踏み入れることができない海域にある島だ。

実際、グアヤキルの港から出港の認可を貰うのに、俺は当地に10日以上足止めを食った。
ガラパゴスの生物圏保護区に入るわけでもないのに、ライセンスを持ったガイドを同行しろの、一人での出港は許可できないのと、散々注文をつけられたが、融通のきかない役人たちを、俺は辛抱強く説得してまわった。

俺は、この島に一人で来なければならなかったから。


島の周囲はかなりの範囲で遠浅の海になっていた。
おかげで、俺は、クルーザーを島から1キロほど沖に停泊させ、ボートで上陸せざるを得なかったのだが、その程度の距離なら泳いで渡ることも楽にできそうなほど、南の海の波は穏やかだった。

この付近の島々は、あとひと月もすれば雨期に入る。
ぎりぎり乾期と言える時期の今はまだ、島の上の空は青く晴れわたっていた。
気温は30度ほど。

平均気温が28度、最も寒い時期には22、3度ということだったから、ここは、年中初夏といった感じの、過ごしやすい気候に恵まれた島ということになるのだろう。

が、島の内陸部にある植物は熱帯地域のそれに属するものがほとんどだった。
ガラパゴスに近いだけあって、鳥類・爬虫類の種類も豊富で、大型の肉食動物はいないということだったが、俺は一応、猟銃を携帯していた(それも、生物圏保護区外にある島だからこそ許されたことだ)。

何にしても、初めてこの島の存在を知らされた時に俺が抱いた、じめじめと蒸し暑く、蚊やブヨがそこいらじゅうを飛び回っている熱帯雨林のイメージは、その島にはなかった。
シーズン中だというのに観光客のいない南のリゾート地。
そこは、そんな島だった。

この島が客人を迎えるのは、14年振りのはずである。
白い砂浜に、俺は、最初の足跡を刻んだ。






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