瞬は、4歳の子供だった。 泣いたり、癇癪を起こしたり、我儘を言ったりしない――子供らしい自己主張というものを全くしない――4歳の子供だった。 身体だけは、16歳の。 俺は、島に上陸した最初の2日の間、瞬と全く同じ生活を体験してみた。 やがて、果物と野菜と焼いただけで味のない魚や貝の食事に飽きて、一度クルーザーに戻った。 俺だけでなく瞬にも、もう少し手の込んだ料理を食べさせてやりたいと思ったからである。 缶詰やクッキー、レンジで解凍加熱した少しばかりの煮込み料理のパックを手に、瞬の“家”に戻ってくると、瞬が泣いていた。 俺の姿を認めると、涙を拭う時間も惜しいと言わんばかりに、瞬が俺の胸に飛び込んでくる。 「ひとり、いや。ひとり、いや」 俺に力一杯しがみついて、瞬は必死に訴えてきた。 「いて、いっしょ。ひょーが、いて」 瞬の声はか細く、その言葉は頼りなくたどたどしい。 だが、その言葉と声に込められている思いの強さは、胸に迫るものがあった。 瞬は、十数年、この島でひとりきりで生きてきた。 それが瞬にとっては自然なことだったから――他の選択肢は与えられなかったから――瞬は、これまで“孤独”というものを知らずに生きてきたのだろう。 そんな瞬に、どうやら俺は、“孤独”という感情を教えることになってしまった――らしい。 それが瞬にとって良いことなのか良くないことなのか――俺は判断することができなかった。 |