日を重ねるうちに、瞬は言葉を思い出し、新しい言葉も覚えていった。 もともと知能の高い子だったのだろう。 その進歩は目覚ましかった。 俺は、瞬を俺のクルーザーにも招待してみた。 初めて見るファイバーグラスの塊りと、閉鎖されたキャビンに怯えるかと思いきや、瞬は意外にも好奇心を旺盛にして、物珍しげに船内を探検してまわっていた。 瞬は、物怖じせず、素直で可愛い。 おそらくは、エデンの園に住むアダムとエヴァに、ヤハウェの神が望んでいただろう美徳を全て備えている。 最初はじゃれついてくる小動物を愛でるように瞬に接していた俺は、やがて、瞬に、憧憬にも似た感情を抱くようになってきていた。 瞬は人間のあるべき姿の具現なのだと、思った。 そして、それは、俺には到底なり得ないもの――でもある。 人間の歴史は、人が一人では生きていけないと悟った時に始まったと言う。 では、人間の歴史というものは、汚れるための歴史だったのだと、俺は思うともなく思った。 |