その日、俺は早目に島の探索を切り上げた。
別に大した理由はなかったのだが――要するに、いつものように、瞬と共に森の奥に入った俺は、そこで鳥たちがつがっている場面に、二度までもぶち当たってしまったんだ。
島には、恋の季節が訪れているらしい。

そんな場面を、瞬は見慣れているらしく、
「ああいう時は、近寄らない方がいいの」
と、声をひそめて、俺に教えてくれた。
鳥たちが何のためにそんなことをしているのかも知らないくせに。


そういうわけで、いつもの捜索を早々に切り上げた俺に、その日、瞬は初めて尋ねてきた。
瞬の日本語は、日常会話に支障をきたすことがなくなるほど流暢なものになっていた。

「氷河は、何かを探してるの」
「ああ」
「この島に宝物があるの」
「どうして、そんなことを思いついたんだ」
「ずっと前に、お父さんが聞かせてくれた。そういうお話があるんだって。……宝島」

「お父さんが? 瞬のお父さんは、今どこにいるんだ?」
「…………」

俺がそう問いかけた途端、それまで朗らかだった瞬の口調と表情が、俄かにかき曇った。
瞬は一瞬きょとんとした顔になり、それから僅かに首をかしげて、
「知らない」
と、沈んだ声で答えた。

俺は何となく、それ以上追及することは良くないことのような気がして、重ねて問うのをやめた。

瞬は、嘘をつく術を知らない。
とすれば、それは嘘ではなく――瞬は、本当に『知らない』と思い込んでいるのだ。
安易に問い詰めることが危険だということは、思春期・青年期心理が専門外の俺にも容易にわかった。






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