瞬が、ではなく、俺自身が、瞬と離れていることなど考えられなくなっていた。
だが、同時に俺が、瞬をこの島の外に連れ出すことに躊躇を覚え始めていたのも事実だった。

瞬は、人を疑うことを知らない。
自分を偽ることも知らない。
処世術を知らず、世辞を知らず、嘘も知らない瞬が、あの偽りだけでできている世界に耐えることができるのだろうか。
その世界で、瞬は、傷付けられ、苦しめられ、潰されてしまうだけなのではないだろうか。

不安と懸念が、俺の上にのしかかってくる。
瞬の素直さや純粋さが、まさにその素直さと純粋さの故に傷付けられ失われてしまうことに、俺自身が耐えられそうになかった。

俺のすべきことは、瞬をこの島から連れ出すことではなく、俺がこの島に残ることなのではないか――と、俺は考え始めていた。


その決意をすることができないまま、時間ばかりが過ぎていく。
瞬の父親の生死の確証を得るための捜索は、決断の時を先延ばしするための言い訳になりつつあった。

俺は、迷っていた。






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