――しかし。

神というものは、神というだけで、人間よりも偉大な存在だという認識の持ち主であるアポロンには、たとえテレビ放映分、劇場版 及び、ハーデス編全話を見せられても、星矢たちの考えに賛同することはできなかっただろう。
実際には、星矢たちが最も苦戦を強いられたのは、神々との闘いではなく、同じアテナの聖闘士たちを敵にまわした12宮戦だったのであるが。

「うぬぅ……言わせておけば、虫けらの分際で好き勝手なことを! 神に逆らったらどうなるか、劇場版に先立って、このアポロンが貴様等に思い知らせてくれる!」

「思い知らせるって、どーするんだー?」
星矢の声は、あいかわらずノンキそのものである。
そして、そのノンキさは、それでなくても激昂しているアポロンの逆鱗を、光速拳でぶち抜くことになった。

「こうなるんだ!」
そう怒鳴るなり、ウルトラセブンよろしく、アポロンが必殺技発動の態勢に入る。

眩しい光が、城戸邸の客間にあふれ、次の瞬間!
星矢たちの目の前で、驚くべきことが起こったのである。


――とはいえ、アテナの聖闘士たちを驚かせたのは、彼が、一人の人間をピンクのヒアシンスに変えてしまったことではなく、彼が花に変えた対象が、氷河ではなく瞬だった――という事実だったかもしれない。

「瞬…… !? 」
氷河の顔に初めて、傲慢な無表情以外の表情が浮かぶ。
水栽培用の透き通ったガラスポットで可憐な花を咲かせている瞬の姿を見せられた氷河は、アポロンに食ってかかった。
「ど……どうしてくれる! これじゃ、今夜、一緒に寝られないじゃないかっ !! 」

氷河の声と表情に焦りの色が浮かぶ様を見て、アポロンは幾分溜飲を下げたらしく、実に嬉しそうな顔になった。
「貴様の都合など、私の知ったことか。元に戻してもらいたかったら──そうだな」

ついと、アポロンがヒアシンス瞬の方に手を伸ばし、その手を、弧を描くようにして、城戸邸の庭へと向きを変える。
とんでもないことをしでかしてくれた男の手の先を追いかけた星矢たちの視線は、そこに、いつのまにかピンクのヒアシンスでいっぱいの花畑ができあがっているのを認めることになった。
畑の中に、元は瞬だったヒアシンスの花が紛れ込む。

それはあっという間の出来事で、星矢たちには、そのピンクの花畑に咲くヒアシンスのどれが瞬で、どれが瞬でないのかが、全くわからなくなってしまったのである。






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