無思慮無謀な神に同情している星矢。
懲りるということを知らない神に呆れている紫龍。
そして、下賎で無知蒙昧なはずの人間たちに、同情され呆れられている太陽神アポロン。

もしかしたら、瞬は、それぞれに心中複雑な人間と神が集っているその場で、最もノンキな人間だったかもしれない。
ヒアシンスにされ、月桂樹にされ、糸杉にされ、野あざみにされ、鹿にされ、それでもなお。

「でも、氷河、ほんとに、どうしてわかったの。僕に何か目印でもあるの?」
数々の苦難(?)を、愛の力で(?)乗り超えた(?)瞬が、至極のんびりと不思議そうに、氷河に尋ねる。

ところで、氷河は、彼にとって“どうでもいい”神への怒りなどに、いつまでも囚われているような男ではない。
つい先程まで、自分勝手な神サマに抱いていた怒りの感情など、彼はとっくの昔に忘れてしまっていた。
故に、氷河は、いつも通りの、真面目なのかふざけているのかの判断が難しい無表情で、瞬の質問に答えた。

「おまえは輝いて見えるからな」
「え?」
「輝いて見えるんだ、そこだけ」
「そ……そうなの?」

氷河の返答に、瞬は少しだけ驚いた。
氷河が、いつも通りの、真面目なのかふざけているのかの判断が難しい無表情で、瞬に頷く。
「おまえは他の誰とも違う。花になっても、木になっても、おまえは、おまえ以外のその他大勢の中に紛れ込んだりしない」

「…………(←星矢の沈黙)」
「…………(←紫龍の絶句)」
「…………(←苦悶のアポロン)」

いつも通り、真面目なのかふざけているのかの判断が難しい無表情で、そんなクサことを言ってのける氷河の脇で、星矢と紫龍とアポロンは、こういう場合の適切なリアクションが思いつかずに苦悩していた。
とりあえず、星矢が、かりかりと痒そうに背中を掻く。


―― H・L・メンケンは、意味じくも言った。
『愛とは、この女が他の女とは違うという幻想である』――と。

が、どうやら、氷河の場合、それは幻想ではないらしい。
氷河にしてみれば、『 Phoebus 〜光り輝く者〜 』の呼び名は、太陽神であるところのアポロンなどより、瞬にこそふさわしいものなのだろう。


それが実際にどういう現象なのかはわからなかったのだが、氷河のその言葉を聞いた瞬は、ぽっと頬を染めた。
それが実際にどういう現象なのかはわからなくても、言われて嬉しい言葉というものは、確かに存在するのだ。






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