「氷河はうまくやっているのだろうか? あの子は昔から、自分の感情表現が下手で、人と関わり合うことも苦手で、いつもクマやアザラシとばかり遊んでいたのだが」
カミュが、氷河の顔と声で、いかにも師匠らしいことを憂い顔で言う。

「はい。カミュ先生、ご心配は無用ですよ」
奇妙な感覚に支配されながらも、瞬はにっこり笑って頷いた。
「あ、でも、まだいらしてくださいね。心配事がなくなったからって、消えたりしないでください。せっかくいらしたんですから」
「ああ、ありがとう、アンドロメダ」

(うーん……何か変だ)
(なにせ、氷河が、自分のことを瞬に案じてみせているんだからな)
見慣れているはずの氷河と瞬のやりとりを、星矢たちは、これまた奇妙奇天烈な気分で眺める羽目に陥っていた。

確かに、それは奇天烈な事態ではあった。
だいいち、一人の人間の中に二つの人格があるのでは、周囲の者たちは混乱するばかりである。
氷河への非難や悪口は、当人の前だからこそ言えるのであって、他人に言ってしまったら、それは陰口になる。
そういう卑怯なことを、星矢たちはしたくなかったのだ。
(悪口に類することを言わなければいいのではないかという意見は、この際無視することにします)

結局、その奇天烈さと不都合を解消するために、“氷河”がカミュでいる時にはサングラスを着用することにしてはどうかという提案が紫龍から出され、カミュはそれを受け入れた。

瞬はと言えば、彼はこの奇妙な現実を、存外に喜んでいる節があった。
自分の知らない氷河の子供時代の話を聞けるのが嬉しかったらしく、2、3日もすると、瞬は、すっかりその奇天烈さに慣れてしまったのである。

「アンドロメダは、シベリアでの洗濯方法を知っているか? シベリアでは、洗濯物を外に吊るすと、洗濯物の水分は一瞬で凍ってしまうんだ。それをはたいて落として、洗濯物を乾かすんだぞ」
「えーっ、ほんとですか〜? 氷河もそんなふうにお洗濯なんかしてたんですか〜?」

──とかなんとか、和気あいあいとしている二人の会話の様子を、星矢たちから聞かされるたび、氷河に戻った時の氷河の機嫌は、悪化の一途を辿っていたのだが。






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