翌朝。
星矢たちの前に現れた瞬は、どこか様子が変だった。
そこに、サングラスをつけた氷河がやってきて、瞬の姿を認めるなり、真っ赤になって踵を返す。

黄金聖闘士の大赤面という、滅多に見られない見世物を見せられて、星矢と紫龍は、昨夜二人(と、もう一人)の間に何かがあったことを、すぐに悟った。

「──氷河が氷河でいる時の記憶は、カミュにはないんだろう?」
婉曲的に、紫龍が瞬に探りを入れる。

「それが……」
瞬は、カミュ以上に頬を赤く染めて、深く顔を伏せてしまった。
「あの……氷河、確かに、ずっと氷河のままでいたんだけど……その……その間は、確かにずっと氷河だったんだけど──」
「だったんだけど?」
「お……終わった途端に、氷河、気を抜いちゃったらしくって……」

ナニが終わった途端なのか、それは聞くだけ野暮というものである。
そして、ソレが終わった瞬間というのは、確かに、男がいちばん無防備になり、かつ、緊張感を失う時なのかもしれなかった。

「カミュになったのか!」
紫龍が、思わず大声をあげる。

「おい、それって、まじかよ〜?」
星矢は星矢で、遠慮会釈のない確認を入れてくる。

瞬は、仲間二人の前で、ますます身体を縮こませることになってしまった。

“終わった途端”というのなら つまり、瞬は、瞬がいちばん乱れていたところを、カミュに見られてしまったことになる。
身の置きどころをなくしたような瞬をまじまじと眺めていた紫龍は、大きな溜め息を漏らしてから、低く呻くように呟いた。
「気がついたら、上に乗っていた男が入れ替わっていたわけか。それは災難だったな」

「災難だなんて、そんな一言で片付けないでよ!」
瞬は、既に半泣き状態だった。
それは、瞬にとっては、飼い犬に手を噛まれた程度の軽い災難ではなかったのである。


まだ身体が繋がった状態で、急に、
「アンドロメダ !? 」
と、名を呼ばれた時には、心臓が止まりそうになった。
実際、しばらく、瞬の心臓は止まっていたのだったかもしれない。

互いに驚き、絶句して、見詰め合うこと数分。
瞬が我に返ったのは、男の生理として仕方のないことなのかもしれないが、瞬の中で、“氷河”のそれ・・が再び硬くなり始めた時だった。

自分が何と叫んだのかを、瞬は憶えていなかった。
とにかく瞬は、完全に恐慌状態に陥り、氷河の姿をしたカミュの頬を叩き、脇にあった枕を彼の顔めがけて投げつけ、しまいには小宇宙を全開にして、カミュを氷河の部屋の壁に叩きつけてしまった──のだった。

恥ずかしいやら、情けないやら、申し訳ないやらで、どうすればいいのかもわからず、脱兎のごとくに、氷河の部屋から逃げ出してきた瞬だったのである。






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