「あの馬鹿師匠がーっっ !!!! 」
他の誰でもない、自分がいちばん悪いくせに、氷河は怒髪天を突いていた。

記憶を共有することはできなくても、入れ替わった時の状況と、その後の全身打撲の痛みから察すれば、自分の記憶空白時間にいったい何が起こったのかは、それなりに想像がつく。
少なくとも、基本的には非暴力主義である瞬が、害意のない人間を壁に叩きつけずにいられないような不始末を、氷河の師はしでかしてくれたのだ。

「死んだ者は、おとなしく死んでいればいいんだ!」
氷河としては、そう怒鳴らずにはいられなかった。
「氷河、なんてこと言うのっ!」
怒鳴った途端に、瞬の平手打ちが飛んでくる。

「……瞬」
氷河の怒気は、瞬の叱責で、霧散した。
失言なのはわかっていた。
悪いのは、カミュではない。

「瞬、すまん。悪かった。本気で言ったわけじゃな──」
「冗談でも、言っちゃいけないことでしょうっ! 氷河なんか嫌い!」
瞬のそれも失言ではあったろう。
だが、瞬は瞬で気持ちの整理ができず、彼はまだ取り乱したままだったのだ。

氷河は、まさに踏んだり蹴ったりの状態だった。






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