一度でも側から離したら、瞬が花霞の世界に消えてしまうのではないかという強迫観念に、俺は捕らわれていた。

瞬が疲れ、あるいは感極まって気を失った時にだけ、俺はベッドを出て端末機に向かい、必要最小限の事務だけを処理した。
3度目の夜を迎える頃には、それもなおざりになっていたが。

今の会社が立ち行かなくなったら、父が俺に恵んでくれるという会社をもらってしまえばいい。
そんな投げ遣りなことを考えながら、俺は瞬の中に俺自身を打ち込み続けた。

最初のうちは、俺にそうされるたび悲鳴に近い声をあげていた瞬の反応も変わってきていた。
幽霊も、この行為に慣れるということがあるらしい。
瞬の喘ぎ声は、日を追うにつれ、弱々しく か細いものになっていったが、それに反して、瞬の身体の感覚は、徐々に、研ぎ澄まされ鋭くなっているようだった。

焼き入れと焼き戻しを幾度も重ねて刀剣を鍛造されるように──実際、俺が瞬に施したのは、そういう行為だった──、瞬の身体が驚くほど素直に、俺の望む通りのものに変わっていく。
これほど相性のいい身体に、俺はそれまで出合ったことがなかった。
そして、そんな身体の持ち主が花のように美しい面差しを有し、あまつさえ、すがるように繰り返し俺の名を呼んでくれる──んだ。

俺に、その花の虜になるなと言う方が無理な話だった。






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