俺はどうやら、前科者になる危機をかろうじて回避できたらしい。

「幽霊──じゃなかったのか」
緊張と弛緩、相反する二つの気分に支配されて、今更なことを尋ねた俺に、瞬は、
「がっかりしました?」
と、微笑しながら反問してきた。
それから、瞬は、二人で過ごした昼と夜とを思い出したように、恥ずかしそうに頬を薄桃色に染めた。

「……取り殺されてもいいと思っていたんだが」
瞬は花なのか人なのか──未だに判断しかねている状態で、俺は呟いた。

それは本心だった──と思う。

もうずっと幼い頃に切り捨てたつもりでいたものに振り回され、出口を見付けられない迷路をさまよっていた俺は、瞬の上に別の出口を見い出したような気分になっていたんだ。
俺は、煮え切らない自分自身に、何ヶ月も苛立ち続けていた。

瞬は、そんな俺に、別の光のを指し示してくれた──俺は、多分勝手に、そう思い込んだ。
それは結局のところ俺の錯覚に過ぎず、別の出口、別の光は、正しい出口でも正しい光でもなかったのだが。

瞬に、そんな意図がなかったのは明白だった。
瞬はどうやら、綺麗すぎるだけの普通の──『普通』という言葉には語弊があるが──ひとりの人間だったのだから。






【next】