白雪姫の心






「瞬から、病院の匂いがした」
事の起こりは、星矢のその一言だった。

瞬は、今日も夜の9時過ぎに城戸邸に帰ってきた。
夕食は済ませてきたと言って、そのまま自室にこもっている。
あまり外出好きな方ではなかったのに、最近の瞬はそういうことが多くなっていた。
それだけでも氷河は、あれこれと想像をたくましゅうして、一人で勝手にやきもきしていたのである。
そこに星矢のその一言。
瞬は仲間たちに内緒で、外で誰かと会っているのではないか──という、氷河のそれまでの“やきもき”は、突然別方向への不安に変わった。

「病院の匂い?」
言われてみれば、この頃、氷河は、ひとりでふさぎこんでいる瞬の姿を見る機会が増えていた。
氷河はそれも恋の悩みなのではないかと勝手な推測をして苛立っていたのだが、もしかしたら事態はそんなおめでたいことではないのかもしれない。

これまでにも幾度か、さりげなく探りを入れてみたことはあったのだが、そのたびに瞬に誤魔化され、結局氷河は瞬の外出の理由を知ることができずにいた。
だが、頻繁になった瞬の外出の理由が、誰かとの密会のためなどではなく、瞬の健康に関わることなのだとしたら、瞬の仲間がそれを知らずにいることは許されない。


ともあれ、氷河は、星矢のその一言で、大義名分を得たのである。
自分が瞬の外出の理由を探るのは、みっともない嫉妬心のせいではなく、“瞬の身を案じて”のことなのだ──という大義名分を。






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