氷河を驚かせたのは、ホテルの各所でこの二人連れに出会った者たちの視線がすべて、瞬ではなく、その老紳士に向けられることだった。
そういう意味で瞬を“連れ”にできる人間を、氷河はこれまで自分しか知らなかったのである。

瞬の同行人は、それほど存在感を感じさせる人物だった。
彼は、彼自身の周囲に一種の緊張感をかもし出し、擦れ違う人間たちの意識をも緊張させる。
まず老紳士に目を奪われた者たちは、その後で瞬に目を向け、納得した表情になったり、あるいは、不思議な二人連れに首をかしげたりする──のだった。


(星矢の奴、何が病院の匂いがする、だ!)
内心で毒づきながら、氷河は、レストランの出入口を窺い見ることのできるソファに、乱暴に腰をおろした。

レストラン内部と廊下を隔てている壁にはめ込まれているガラスの小窓から、かろうじて二人の会食の様を観察することができる。
老紳士に向けられた瞬の横顔が微笑の形になっていることが、氷河の神経をぴりぴりと刺激してくれた。






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