沙織は瞬が身に着けたドレスを持って、先に病院を出ていた。

「瞬くん、ありがとう。気が進まなかったのだろう、本当は」
妻を亡くしたばかりの老紳士が、着替えを済ませた瞬と氷河を、病院の裏口まで見送りに出てきてくれていた。

瞬が顔を伏せたまま、彼の言葉に首を横に振る。
瞬は、必死に涙をこらえているようだった。
品川氏が、悲しい笑顔を作って、そんな瞬の髪を撫でる。
こういう時、いつも過敏に反応する氷河の嫉妬センサーも、今ばかりは沈黙を守っていた。

「泣かないでいいんだよ。妻は、娘の綺麗な姿を見ることができて、幸せに死んでいった。君のおかげだ」
「僕じゃない。おばあちゃんが幸せだったのは品川さんのおかげで、僕のせいなんかじゃありません……!」
瞬がなぜ、そんなことを語気荒く訴えるのか、氷河にはわからなかった。

「ありがとう。……ああ、君」
その理由がわかっているのかいないのか、品川氏は瞬にもう一度謝意を告げてから、氷河に向き直った。
「私は妻の側にいなければならないので、瞬くんを頼むよ」

「はい」
つい数時間前までは殴り倒してやりたいと思っていた人物に、氷河は素直に頷いた。
『言われなくてもそうするつもりだ』などという憎まれ口は、さすがに出てこなかった。






【next】