「死んだ者を侮辱する気かっ!」
アルビオレの怒声で、カミュが、はっと我に返ります。

日頃 温厚篤実で売っているアルビオレが、らしくもなく憤怒に身を任せている様と、棺の中の物言わぬ少年の姿とを交互に見比べていたカミュは、やがて覚悟を決めたようにゆっくりと口を開きました。
「当の本人が亡くなっているのだから、どちらの主張が正しいのかを判断できるのは神のみだろう。真実を明らかにするために、今ここで我々が闘おうではないか。神は正しい者を勝たせてくれるはずだ」
「なに?」

アルビオレは、カミュの提案に驚いて、瞳を見開きました。
葬儀の場での聖闘士同士の果し合いなど、聞いたこともありません。
けれど、公衆の面前で挑戦状を叩きつけられ、敵に背を向けるわけにもいきません。
アルビオレはカミュに重々しく頷きました。
「よかろう。瞬の名誉を守るのは、瞬の師としての私の務めだ」

そんなふうなカミュとアルビオレのやりとりを聞いて慌てたのは、氷河です。
こんな展開は、彼の(杜撰な)計画では想定すらしていないことでした。

「し……師よ、葬儀の場で闘うなど、死者への冒涜というものです!」
氷河はカミュを思いとどまらせようとしたのですが、クールとは程遠い彼の師に、彼の言葉は届きませんでした。

アクエリアス家のカミュとアンドロメダ家のアルビオレ。
二人の聖闘士は、葬儀の場で、衆目の中、互いの弟子の名誉をかけた闘いを始めてしまったのです。






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