「へ……?」 準備万端整っていた氷河の滂沱の涙が、あっさり引っ込んでしまったのは言うまでもありません。 生きていてくれれば──生きていてさえくれれば、どんな失敗も過ちも、償い修復することはできるのですから。 その可能性だけは失われないのですから。 カミュが生きていることを知らされた氷河は、ほっと安堵の息を漏らしました。 と、そこに、思いがけず厳しいアルビオレの声が降ってきます。 「だからと言って安心するのはまだ早い!」 優しい面立ちを険しいそれに変えて、瞬の師は氷河に言いました。 「君は、衆目のあるところで、家の看板を背負った者が負けるということの意味がわかっているのか !? それも真の力を発揮することなく、だ。命よりも大切な面目と誇りを、彼は君のために捨てたのだぞ!」 「…………」 面目やら看板やらが命より大切かどうかはさておいて、それらのものがカミュにとってはこの上なく大事なものだということは、氷河も十分に承知していました。 カミュが不肖の弟子のために、それらのものを捨てようとしたことには、氷河も感動せずにはいられませんでした。 「そして、私も愚かだった……。もしかしたら瞬の死は、私の頑なな心のせいだったかもしれないのに、私はその責任を君に押しつけようとした。私は、詰まらぬ意地を張って、可愛い弟子の命を失ってしまったんだ……」 瞬の死を疑っていないアルビオレの声は、涙で震えていました。 「私は、瞬への罪滅ぼしのために、これからはくだらぬ意地は捨て、両家の関係の修復のために尽力しようと思う」 「う……それは……」 アルビオレのその苦渋に満ちた言葉を聞いて、氷河は再び、さっと青ざめることになってしまったのです。 |