個々人の反省は反省として、です。
弟子を思う二人の師匠の愛情もそれはそれとして、です。
両家の敵対関係が雪解けの時期に入りかけた非常に喜ばしい今この時に、瞬が死んだことになっている──というのが、この場合の大問題でした。

氷河と瞬が企てたのは、あくまでも二人の師の面目を保つための駆け落ち計画であって、その必要がなくなったなら、二人は駆け落ちなんかしたくなかったのです。
それぞれの師の許で、聖闘士になるための修行を続けたかったのです。

しかし、ここで瞬が生き返りでもしたら、かなりの間抜け。
その上、なぜこんなことになったのかを追求されたら、また別の問題が生じることになりそうです。

いったいどうすれば、この苦境から逃れられるのか──。
氷河は途方に暮れてしまいました。
途方に暮れ、救いを求めるように、棺の中にいる瞬の方に視線を巡らせました。
すると、そこには──。

「瞬…… !? 」

そこにはなんと、棺の中で上体を起こした瞬が、アルビオレとカミュと、そして氷河を見詰めていたのです。
驚く氷河とアルビオレとカミュとその他大勢の弔問客たちに、瞬はにっこり笑って言いました。
「神様が、大団円に水を注しちゃいけないから、生き返りなさいって」

そんなご都合主義な展開を、クールの意味を取り違えているようなカミュならともかく、アルビオレや、他の常識人たちが素直に受け入れてくれるものだろうかと、氷河は内心冷や汗だらだら。
ですが、氷河の心配は無用のものでした。

それまでアクエリアス家とアンドロメダ家の確執と和解の様子を、固唾を飲んで見守っていた弔問客たち(という名の観客たち)が、葬儀場に怒涛のような歓声を響かせます。
どうやら人間というものは、悲劇よりもハッピーエンドの方が好きなようにできているようでした。

粋な神様が起こしてくれた奇跡に感激し喜びに沸きたつ観客たちと、アルビオレから受けた打撃から立ち直り立ち上がったカミュと、弟子の蘇生を喜ぶアルビオレに微笑を向けながら、瞬はそっと氷河に目配せをしてきました。

機転のきく恋人のおかげで、氷河は、彼の人生最大の危機を回避することができたのです。
氷河は、今度こそ本当に、安堵の胸を撫でおろすことができたのでした。






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