「変わんないのはおまえもだろ。相変わらずお子様だな」 星矢の氷河への評価も、6年の月日が経ったというのに、全く変わることはなかった。 「『一輝はきっと帰ってくる、頑張れよ』って言うとさ、瞬の奴、泣きそうな目をして『うん』って頷くんだ。あー、久し振りの瞬はやっぱいいなー。ギリシャのねーちゃんたちはみんな気が強くってさぁ、瞬みたいに素直で可愛い子なんて一人もいねーの。その点、日本はいいよな〜。なんったって、ヤマトナデシコの国だもんなー」 なぜこの快感が氷河にはわからないのかと焦れているような星矢に、紫龍が無表情に言う。 「沙織さんも日本女性ということになっているようだが」 「うへぇ〜」 星矢と紫龍の漫才を聞くために、氷河はここにいるわけではない。 妙に楽しそうな星矢の呻き声を、氷河はあっさりと無視した。 「おまえらが瞬に言ってるのは、その場しのぎの──おざなりで無責任な励ましだ。言う方も、言われて喜ぶ方も馬鹿だ」 氷河の手厳しいご意見ご感想に、星矢が大袈裟に肩をすくめる。 星矢たちの励ましは、確かに何の根拠もないものだった。 だが、彼等はそれを、おざなりに言っているつもりもなかったのである。 あの一輝が瞬を残して死んだりするはずがないと、星矢たちは本気で信じていたのだ。 「おまえは、瞬のためにならないから、そんな無責任なことは言えないって思うのかもしれないけどさ。でも、だからって、おまえに俺たちを責める資格はないだろ。おまえは瞬のために何にもしてないんだから。いっつもムスッと瞬を睨んでるだけでさ」 「俺は、別に、瞬のために何かしたいと思っているわけじゃない。そんな無意味な励ましを喜ぶ瞬が馬鹿だと言っているだけだ。馬鹿には馬鹿の友だちが似合いだということだな」 「俺たち、氷河の友だちだもんな〜」 それは、考えようによっては有難いことこの上ない声明だったのだが、星矢のその言葉を聞いた氷河が、唇の端を引きつらせる。 そんなものになった覚えはないと、氷河が怒鳴り声をあげようとしたところに、まるでタイミングを計ったように、瞬が登場した。 修行に出ていた青銅聖闘士たちが帰国してから、城戸邸の客間はすっかり彼等の溜まり場と化していたので、それ自体は不思議なことでも何でもない。 気勢を殺がれた格好で、口にしかけた言葉を飲み込んだ氷河が、浮かしかけていた腰をソファの上に戻す。 星矢は、にやにやと嫌らしい笑いを浮かべながら、そんな氷河の脇腹を肘で突付いた。 「? どうしたの?」 「あ、いや。今、みんなで そんなことでいちいち腹を立てていたら、瞬は“瞬”などという商売をしていられない。 瞬は怒ったような顔は見せずに──むしろ微笑して──星矢のはす向かいにあった一人掛けのソファに腰をおろした。 「僕には、星矢の方が可愛く見えるけど」 「おっ、瞬、見る目あるなー。俺って、ほんと可愛いよなー」 瞬に『可愛い』と言われて喜べる星矢の気が知れない。 氷河の不機嫌は倍増しした。 そんな氷河を横目に眺めていた紫龍が、突然瞬に尋ねる。 「氷河は?」 「え?」 「氷河は可愛いと思うか?」 それを、突拍子のない問い掛けだとは思ったのだろう。 瞬は、一瞬瞳を見開き、センターテーブルの向こうで不機嫌そうな顔をしている氷河を窺うように見詰め、それから、困ったように両の肩をすぼめた。 「可愛い……なんて答えたら、氷河、気を悪くしそう」 「お子様だからな〜」 氷河が口を開く前に、星矢が先に瞬にリアクションを起こす。 そんな些細な事柄ですら、氷河の機嫌を更に悪化させるには十分な力を持っていた。 氷河が無言で立ちあがり、客間を出ていく。 星矢と紫龍は忍び笑いを漏らしつつ、金髪の仲間の後ろ姿を見送ったのだが、それは瞬にとっては、あまり楽しい事象ではなかった。 |