氷河の不愉快と不機嫌を無視して、事態はめまぐるしく転変していく。


星矢の根拠のない確信の通りに、瞬の兄は生きていた。
彼は、裏切り者として、氷河たちの前に姿を現した。
生きていてくれたことを喜べばいいのか、兄が自分たちの敵にまわってしまったことを悲しむべきなのかすら迷っているような瞬に、星矢たちはまたしても、
「いつかはきっと何もかもがいい方に向くようになるさ。頑張れ」
と、根拠のない励ましを投げかけていた。
そして、瞬は、仲間たちに励まされるたびに、泣きそうな目をして、「うん」と頷く。


瞬の兄が死んだ。
6年前の別離の時と同じように瞬は泣き、星矢たちは星矢たちで、
「いつまでも泣いてると、一輝が心配するぞ。泣くなよ」
という、やはり6年前のあの時と大して変わらない慰めの言葉を、瞬に送る。
空虚でありふれた仲間たちの慰撫に、瞬は、だが、結局は、「うん」と頷いていた。


瞬の兄が生きて帰ってきた。
星矢たちが、ここぞとばかりに喜び、
「もう泣かなくて済む。よかったな、瞬」
と、瞬に祝い言を投げかける。
瞬は瞳を潤ませて微笑み、何をしてくれたわけでもない仲間たちに礼を言っていた。
「うん、みんな、ほんとにありがとう」
──と。


氷河には、瞬が馬鹿に見えていた。
意味のない、実のない、言葉だけの励ましと慰め。
そんな空虚なものに、いちいち頷き、涙し、喜ぶ瞬が、不快でならない。
そんな瞬を見ているのが、氷河はたまらなく嫌だった。






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