仲間たちの集う部屋から、いつのまにか氷河の姿が消えていることに、最初に気付いたのは──気付いた素振りを見せたのは──、その部屋の仲間入りを果たしたばかりの瞬の兄だった。

兄が気付いたことに気付いた瞬が、気落ちしたように薄く笑って、小さな声で呟く。
「嫌われたままなんです、僕」

瞬の兄は、だが、弟のそんな言葉を鵜呑みにするほど軽率にはできていない。
「……殺生谷で、おまえを庇った」
省かれた主語はもちろん、『氷河やつは』である。

「そうそう。おまえに何かあるとすぐにスッ飛んでくる。おまえ、絶対、嫌われてなんかないって」
「……うん」
星矢の言葉は信じたいが、氷河の言動は、全く不安なく彼の好意を信じさせてくれるようなものではない。
それでも、瞬は、小さく星矢に頷いた。

氷河の姿を飲み込んでしまったドアと、意気消沈気味の弟の顔に、順に視線を走らせてから、一輝が呆れたようにぼやく。
「お子様だな、相変わらず」

悟り顔でそう言ってのけた一輝に、星矢は唇をとがらせてクレームをつけた。
「人のこと言えるか! 散々面倒かけてくれて、おまえのせいで瞬がどれだけ泣いたか、おまえ、わかってんのか!」
「奴には、それも癪の種になっているのかもしれんな」
「その通りだけど、話を逸らすな!」

真正面から噛みついてくる星矢に意外の感を隠さず、一輝は、感心したように彼に告げた。
「おまえは、氷河よりずっと利口だ」
「あんなのと比べるなよなー」

一輝が口にした とてつもない侮辱に、今度は星矢が憮然とする番だった。






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