「あなたたちの闘いは終わりました」 アテナは、彼女の聖闘士たちに、そう宣言した。 確かに、地上は平和だった。 青銅聖闘士たちが、アテナの告げたその言葉に『そうなのかもしれない』と思うほどには。 「あなたたちが人々に歓迎されるのは、この地上に平和を脅かす敵が現れて、人々が災禍に見舞われ混乱している時だけ。あなたたちの活躍の場がこの地上にないということは、地上に住む人々が幸せでいるということなのだから、今のこの状況は喜んでいいことなのよ」 すべきことを失った聖闘士たちに告げられる沙織の言葉は、ある意味では、ひどく残酷なものだったかもしれない。 「あなたたちが、人々に必要とされなくなる時がやっときたのよ。あなたたちの人生が、あなたたちの手の中に戻ってきたの。あなたたちが、あなたたち自身の人生と幸せを考える時が」 もちろん、その残酷さの意味を──言葉を選び抜いた上で使われた『必要とされていない』なのだということを──彼女の聖闘士たちは理解していたが。 そして、事実、それは喜んでいいはずの言葉だった。 が、『もう、あなたたちは必要ではない』と言われることへの戸惑いが、青銅聖闘士たちの中に皆無というわけでもない。 そもそも自分自身の幸せなど、闘いの中にしかないと思い込んでいた彼等だったのだ。 「もちろん、これまでの闘いであなたたちが失った時間を取り戻すために、私も尽力するわ。あなたたちが聖闘士にならなかったら歩んでいたはずのそれぞれの人生を、私はあなたたちに取り戻してほしいの」 それが沙織の愛情から出た言葉であり、彼女がもうずっと以前からそうなることを望んでいたことも、彼女の聖闘士たちは知っていた。 ──のだが。 「んなこと、突然言われてもなぁ……」 間の抜けた調子で星矢の口から発せられたぼやきが、アテナの聖闘士たち全員の心情を代弁していた。 |