「おい、瞬」
言葉もなく──氷河を責めるでもなく、こうなった訳を問い質すでもなく──ただぽろぽろと涙を零している瞬に、氷河が久し振りに自発的に声をかける。

「泣きやめ」
それは、だが、瞬を更に泣かせるだけの言葉だった。
それは、氷河だけはそんなことを言わない──と、瞬が固く信じていた言葉だったのだ。

「瞬、頼むから泣きやんでくれ。ったく、俺がおまえに何かしたとでもいうのか」
氷河が何もしてくれないから、瞬は泣いているのである。
瞬の涙は止まらなかった。

「僕……僕は、強くなったつもりだった。泣いちゃっても、そのあとで笑えるならそれでいいんだよって、氷河が言ってくれたから、そんなふうにだったら、僕だって強くなれるって思って、だから聖闘士にだってなったのに──なれたのに……。今度会った時、氷河にはちゃんと笑ってみせなくちゃって思って頑張ってきたのに、なのに、氷河が僕を見てくれないのなら、僕が笑ったって、聖闘士になったって、強くなったって、何もかも無意味だ……!」

瞬を支え続けてきたその言葉を、他ならぬ氷河が──瞬に『泣いてもいいんだ』と言ってくれた氷河が──無下にする。
それは、瞬にとっては、彼が過ごしてきたこれまでの数年間を否定されたのも同然のことだった。






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