「僕、氷河に避けられてるの、もう耐えられない。辛くて悲しくて、夜も眠れない。どうしてこんなことになっちゃったの……」
「どーしてって言われてもなぁ……」

そんなことを言われても、紫龍同様 星矢にも、瞬の悩みを根本的解決に導いてやることは不可能である。
そもそもこれは、第三者が横から口出しをしていいことではない。
そして、第三者から見ると、瞬の悩みはアホらしくて付き合いきれないほどに、超低レベルなものだったのだ。

それでも星矢は、紫龍よりは親切だった。
少なくとも星矢は、瞬に『押し倒す』の意味を教えてやるだけの親切心を持ち合わせていたのである──不幸なことに。

『考えるな。身体で感じるんだ』とは、かのブルース・リーの言葉。
星矢がブルース・リーに傾倒していたかどうかは定かではないが、星矢が、あれこれと言葉を重ねることよりも実演の方が簡単な説明方法だと考えたのは事実だった。

「あのなー、押し倒すってのはさ、こーゆーことだよ!」
言うなり、瞬の両肩を掴み、押さえつけ、星矢は瞬をラウンジの床に押し倒した。

「わっ!」
星矢の突然の行動に驚いた瞬が、あまり色気のない声をあげる。
そして、そういう場面にタイミングよく氷河がやって来るのは、いわゆるラブコメのお約束というものだった。

「星矢〜っっ !!!! 」
氷河の誤解に気付いた星矢に、自分の親切心を後悔する時間は与えられなかった。
「わっ、たんまたんま!」
「問答無用!」

城戸邸のラウンジで──つまりは、屋内で──氷河の 踊らないダイヤモンドダストが炸裂した。






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