「あの子ほど、このコンベンションのメンバーにふさわしい人間はいない。DBとヒトの平等主義者で、気負いも負い目も劣等感も優越感も何もなく、とても自然に生きている子だ」
自然に・・・、か。無能なヒト共が、自分たちの存在意義の根拠として多用する単語だな。曰く、『ヒトは自然物だが、DBはヒトの手で人工的に作られた道具にすぎない』」

「瞬は、そこを越えて自然なんだ。瞬! 人類史上最高傑作と言われているDBを紹介してやろう、おいで」
「あ、はい……!」

3階建て以上の建物に足を踏み入れたことがなかった瞬は、150階──地上750メートルの高さから見おろせるビルの街に見入っていた。
紫龍に呼ばれて我に返り、手の甲で頭を小突きながら、少し覚束ない足取りで呼ばれた方に駆け寄る。

「こいつが、我等が地球の行政府である元老院の筆頭議員にして、立法評議会の議長様だ。この街の実質的支配者だな。名は氷河。俺の亡くなった父親がデザインしたDNAでできている。こいつをデザインしたおかげで、我が社のDNAデザインは世界最高だという評判をとっているんだ。俺の飯の種だ」
「え……」

この街を支配しているということは、世界を支配しているということである。
紫龍に飯の種呼ばわりされた世界の支配者は、彼のDNAをデザインしたヒトの亡き今、世界最高のDNAデザイナーの呼び名も高い長髪男を、ほとんど表情を変えずに睨みつけた。

瞬はといえば、このビルの前に立ち、その高さに圧倒された時よりもびっくりしたような顔をして、ぽかんと氷河を見あげている。
「なんだ?」
「あ……すみません、あんまり綺麗な人なので、びっくりしちゃって。僕、瞬といいます。よろしくお願いします」

「……ふん。自然に・・・こんなのができるのだとしたら、“自然”というものも侮れないな」
「はい?」
氷河が何を言わんとしたのかを咄嗟に理解できず、瞬が反射的に問い返す。

横から紫龍が、解説を入れてくれた。
「氷河は、おまえが可愛いと言っているんだ」
「え……」
たとえお世辞に過ぎなくても、史上最高と言われているDBの口から、そんな言葉が発せられること自体が、瞬には思いがけないことだった。

しばらくの間、その言葉をどう受け止めるべきかを迷ったあとで、瞬はぽっと頬を染めた。






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