瞬がダイニングルームを出ていくと、それまで言いたいことを言わせてもらえずに不満顔でいた星矢が、鬱憤を晴らすように、残された二人の仲間にがなりたて始めた。 「ほんとのこと教えてやればいいだろ! 夕べは敵襲があったのに、誰かさんのせいで、過酷な状況での闘いを強いられた俺たちは、くたくたのへとへとなんだって! 瞬がいれば、もう少し楽に撃退できたのに、氷河が、瞬は眠らせておけなんて言うから、仕方なく俺たち3人で敵さんの相手をする羽目になって、散々苦労したんだって!」 昨夜城戸邸を襲撃してきた敵さんたちは、雑魚とはいえ、数十人規模の団体さんだった。 だというのに、星矢たちは、瞬を起こしてしまわないために、なるべく音を立てず、小宇宙の燃焼も極力抑えた上での闘いを余儀なくされてしまったのである。 『うおおおぉぉぉぉ〜っ !! 』と雄叫びをあげて奮闘する癖がついている星矢には、それは、やりにくいこと この上ないバトルだったのだ。 紫龍が、星矢をなだめるように言う。 「しかし、おまえだって、最終的には同意しただろう。あんな幸せそうな瞬の小宇宙は初めてだから、今夜だけでもあのまま眠らせておいてやろうって」 「そりゃ……とても起こせるような雰囲気じゃなかったし……」 星矢の怒声が、さすがに少し歯切れが悪くなる。 星矢は、氷河の提案を不快だと思ったわけではないし、その提案に同意したことを後悔しているわけでもなかった。 再び似たような状況に置かれることがあったなら、自分は同じ決断をするだろうとも思う。 だが。 瞬を起こさないように、騒がしい音を立てないように──“静かに闘う”ということが、あれほど困難を極めた大事業だということを、氷河の提案に同意した時の星矢は、考えてもいなかったのだ。 技の名前を叫ばずに流星拳を放つなどという行為は、星矢には初めての経験だった。 |