「一輝は──だから、ここに居つかない。ここには瞬がいるし、俺たちは奴の過去なんか気にもしていないのにな。ま、奴が瞬の側にいないのは、俺には好都合なんだが」 初めて皮肉な態度をとるのをやめ、 一輝は、かつて彼自身がしたことを忘れてはいないし、アテナの聖闘士たちの仲間になりきったわけでもない──なってはいけないと思っている。 群れるのが大好きなくせに、つまらぬ意地や罪悪感のために群れから離れている一輝をも、氷河は馬鹿だと思っていた。 その馬鹿さ加減が、氷河には非常に都合のいいものだったので、彼は、瞬の兄を利口にしてやろうなどという殊勝なことは考えたこともなかったが。 一輝の 彼にとって、一輝は、元々信じていたい相手なのだ。 そうして、ブラックアンドロメダの憎悪は、結局、瞬ひとりに向けられる。 「い……一輝様はそうなんだとしても、アンドロメダの奴は……! いつも誰かに守られてて、これ見よがしに親切ぶって、人がよさそうな振りして、馬鹿みたいに平和そうで、不幸も悪事も全然知らなさそうなツラして! あいつに利口だった時なんてあったのかよ!」 ブラックアンドロメダの目に、瞬の姿は、そんなふうに映っていた。 不幸など知らない人間のそれのように見えていた。 瞬がもう少し不幸せそうでいてくれたなら、ブラックアンドロメダとて、あんな姑息な虚言で瞬を傷付けてやろうなどとは考えなかったのである。 許そうとか、親しんでいこうとか、そんなことができるほどご立派な人物にはなれそうもなかったが、少なくとも責めずにいることはできた。 瞬が、自分と同じように不幸でいてくれたなら。 しかし、事実はそうではなかった。 |