「──いいことを考えた。貴様を殺せば、アンドロメダを利口者に戻してやることができる」
最初からそうすればよかったのだ──と、ブラックアンドロメダは、その思いつきを口にしてから思った。

瞬を苦しめるために、瞬当人に当たっても効果は期待できない。
ブラックアンドロメダ自身、自分が瞬に敗北を喫したことよりも、仲間を失ったことの方が、より大きな衝撃だった。
まして、仲間大事で生きているアテナの聖闘士ならば──。

「それで瞬に憎まれることが、おまえの幸せか」
「ああ、幸せだね! 想像しただけで、ぞくぞくする」
「…………」

ここまで言っても、“馬鹿”にも“利口”にもならないブラックアンドロメダに、氷河はそろそろ本気で同情しかけていた。
中途半端な小利口が、どれだけ人を不幸にするものか、“不幸”の経験豊富な氷河は、十二分に知っていたのである。

馬鹿には、“馬鹿”に徹して相手をする必要がありそうだった。

「あー……あれだな。おまえ、それは、瞬に惚れてるんだ」
「何ぃ !? 馬鹿なことを言うなっ!」
言うに事欠いて、自分が、一度は自分を殺した・・・相手に惚れているとは、どこから湧いてきた発想なのだろう。
ブラックアンドロメダは、氷河の戯れ言に激昂した。
ブラックアンドロメダは、サドの気はあってもマゾの気はなかった。──ないつもりだった。

「意識しすぎているのは確かだな。何だ、当座の人生の目的はもう見付けているのか」
「あのなぁ、俺は……!」
「瞬は渡さないぞ」

「誤解だっ!」
この悪質な誤解だけは、誤解のままにしておけない。
ブラックアンドロメダは、決死の形相で氷河を怒鳴りつけた。

しかし、おめでたい人間には、不幸の国の言葉は通じない──らしい。
ブラックアンドロメダが、その事実をますます実感することになったのは、
「じゃあ、おまえが惚れているのは、俺の方か?」
という、氷河の寝とぼけているとしか思えない超々々暴論のせいだった。

「ど阿呆っ! 俺が一輝様以外のいったい誰に──!」

馬鹿の本音を引き出すには、“馬鹿”モードで相手をするのが最も有効である。
氷河の“馬鹿”は、そうすることに成功した。






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