「でも、そういうのもいいね。僕も氷河のマーマになりたい。そうすれば、氷河が傷付いてる時も、泣いてる時も、氷河が僕を嫌いになって物を投げつけてきても、僕は、『仕様のない子ね』って言って、氷河の頭を撫でてあげられるんだ」 俺の頭を撫でながら──というより、俺の髪に指を絡めて、瞬は、俺の夢を引き継いでみせた。 「俺が弱っている時には、おまえが俺の母親で、おまえが泣いている時には、俺がおまえの母親で──? 互いに互いの傷を舐め合っているようなものか」 「ばか。どこ舐めて そんなこと言ってるの」 俺の舌での愛撫に身悶え喘いでから、瞬は、その恐るべき精神力で、俺を自分から引き離した。 「傷を舐め合って、癒し合って、その心地良さに溺れることなく、そのあとでまた前に進めるのなら、それでもいいと思うけど」 前に進みたがっている今の俺の状態を知っているくせに──それとも、知っているからこそなのか──そんな所作で、瞬は俺を焦らす。 焦れているのは、瞬の身体の方も同じなのに。 「母親の真実の愛は、少しでも早く子供が一人で立っていられるようにしてやることなんだって」 「一人で勃たせるのは無理だな。せめて、おまえを見ないと」 硬くなりつつあるものを瞬の太腿に押しつけて、俺は俺の焦れ具合いを瞬に示し、俺を欲しがっている瞬のその部分に触れて、瞬自身もまた焦れていることを、瞬に教えてやった。 「もう……。そんなのの話じゃないってば! ……んっ!」 瞬の身体が正直に、その唇から艶のある声を洩らす。 言語と鳴き声の区別は、それを用いて嘘をつけるか否かで決めるのだそうだ。 嘘をつけない瞬の喘ぎは、だから、鳴き声ということになる。 「“そんなの”呼ばわりはないだろう。これが好きなくせに」 「好きだけど……」 あっさりと認められて、俺は少し気が抜けた。 早く瞬の中に入りたいと駄々をこねていたものまでが、少し冷静になる。 「正直だな」 「氷河に嘘言っても始まらないもの」 それもそうだ。 「でも、氷河が僕のマーマになっちゃったら、こんなこともできなくなっちゃうね」 瞬が、俺をからかうように、俺に手を伸ばしてくる。 「できなくなっても、俺は、一生おまえの側にいる権利を手に入れられる」 ──言葉にして、初めてわかった。 そうか。 俺が欲しいものは、結局、“それ”なのか。 |