瞬は、歳は若いが非常に有能な少年──氷河の目にはそう見えた──だった。
ゲゼル星の住人は基本的にドライで合理的と聞いていたが、瞬は神経が細やかで、異郷の星からの客人に行き届いた気配りを示してくれた。
子供のような姿で、ホストコンピュータの扱いから対人処理までをスピーディかつ確実に捌き、求めれば即座に適切なアドバイスを提示し、望んだ通りの資料を短時間で用意し、その上、氷河の嗜好に合わせた飲み物を作ることまで、瞬はほぼ完璧にこなしてくれた。
性的なことを全く意識しなくていいので、仕事もしやすい。

氷河は、最初は、瞬を、ロボットかアンドロイドに類するものなのではないかと疑いさえしたのである。
人間に代替する心のない道具を生み出そうという思想が、この星には存在しないことは知っていたのだが。
瞬は、その容姿までが完璧だった──氷河の好みに完璧に合致していた──ので。

しかし、瞬は人間だった。
瞬は、ゲゼル人の子供の半数がそうであるように、父母の許ではなく政府管掌の育成センターで育ったらしい。
親の名も素性も知らないということだった。
それはさほど重要な秘密というわけではなく、親が知らせることを望み、あるいは、子が知ることを望んだ場合には、簡便な手続きで情報開示が為されるらしいのだが、瞬はその申請を出したことがないのだそうだった。

ゲゼルの育成センターには育児・教育のプロがいて、彼等は、預けられた子供たちの才能を見極め、その才能を最も有効活用できる進路を、子供たちに提示する。
成人した子供たちは大抵は、その才能の最も優れた部分を生かすことのできる専門分野へと進むのだが、瞬は多岐方面に有能で、総合管理職コースに進むことを勧められた──のだそうだった。

実際、氷河の目にも、瞬は、地球で言うところの男性の決断力や果敢、女性の繊細さと順応力の両方を備えている人間のように見えた。
当然、洞察力や判断力にも優れている。
その証拠に、瞬は、文化の違うこの星で、どちらかと言えば気分屋の氷河を不快にさせることがただの一瞬もなかった。
基本的価値観を氷河と同じくする地球人にもできない芸当である。

しかし、その有能さにも関わらず、性的なものが表現されない無性のためか、瞬の姿は、実年齢よりはるかに幼く見えるのである。
中でも、その子供のように大きな瞳は、特筆物だった。
まっすぐに氷河を見詰める瞬の瞳は、頑なな子供の無垢に刺されるような感覚を氷河に覚えさせる。
氷河は、自分に性的魅力を感じてくれない子供の瞳に出会うたび、我知らずどぎまぎしてしまうのだった。






【next】