オフィスと言っても、氷河のオフィスには機械しかない。
ゲゼルの資源精製工場やゲゼル側の責任者とコンタクトが取れるスクリーン、地球側から幾つかの中継地点を経て送られてくる資料や指示を受け取るための設備。
ミーティングも会議室に赴くわけではなく、自席にいながらで出席する。
時折、例の技官が同胞恋しさにこのビルを訪れる時を除いて、機械の他に、氷河のオフィスにいるのは瞬だけだった。

そんな中で、毎日二人きりで仕事をしているうちに、氷河は、気がつくと瞬の姿を目で追い、その髪が黒くならないかと期待している自分を自覚するに至ったのである。

性的変化がないせいで幼く見える瞬は、たとえば何かの弾みで氷河と手が触れ合うようなことがあると、戸惑ったように頬を染める。
まるで地球人の幼い恋人のそれのように。
しかし、瞬の髪の色は緑色のまま変わらない。

つまり、氷河の前で瞬の頬が上気しても、それはそうい・・・うこと・・・ではなく──氷河を恋の相手として『いい』と感じているわけではなく──ただの照れか何かに過ぎないのである。
相手の心がここまではっきりわかってしまえば、確かにその方面での誤解は生まれないだろう。
思い込みや期待によるトラブルを生じることもないに違いない。

好意を抱いている相手に示される無反応は、だが、氷河には、全く楽しいものではなかった。
ゲゼル人ではなく地球人である氷河は、自分が好意を抱いている相手に愛され求められないことに、ゲゼルの住人ほどドライではいられなかった。
そして、瞬を諦めることもできなかった。






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