瞬の髪の色を変えることができないまいまま、更に半年。
氷河が地球に帰る予定の日が近付き、彼は、瞬の他には機械しかないオフィスで、瞬の髪の色を凝視する日々を過ごしていた。

「何か?」
まるで怒っているように不機嫌な氷河の視線にさらされていることに堪えられなくなった瞬が、困ったような顔をして氷河に尋ねてくる。

「俺は、あと一週間で地球に帰らなければならない」
「そうですね……」
瞬はひどく寂しげにそう言い、そう言いながら、頑なに緑色の髪を保っている。

氷河の仕事は、もう3ヶ月も前に完了していた。
交易は順調に行なわれ、トラブルも皆無。
価値観の違う星間での初めての製品の交易にしては、ありえないほどに全てが順調だった。
これまでの氷河なら、さっさと地球に帰り、他の仕事に着手しているところである。

瞬に与えられる仕事も、もう地球側の監督省庁に提出する資料の整理くらいしかない。
本来なら、そんな詰まらない仕事からは早々に解放してやった方が、瞬のためにも、この星のためにもいいのだろう。
だが、氷河はそうすることができずにいた。
彼にそうさせたものは、未練という感情だったかもしれない。

「おまえが女性に変化したら、素晴らしい美人になるだろうに、俺にその力がないのが悔しい」
それは呟きというより呻き、呻きというよりは、痛いほどの嘆きだった。

瞬の 髪ではない部分が氷河のその言葉に反応し──瞬は、その瞳を潤ませ、その頬を薄紅色に染めてみせた。
瞬が地球人なら、間違いなく自分は瞬に好意を持たれていると、氷河は判断していただろう。
瞬に恋されていると信じ、このまま重ねてすぐに口説きにかかる。

なのに、この星では、口説いた結果が見えているのだ。
『僕はあなたをそういう目で見ることはできません』と瞬の緑色の髪が、氷河に冷酷に告げていた。






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