瞬の肉体はつまり、性的に未分化の地球人の子供のようなもの──であるらしい。
似たような境遇の者は、瞬の他にもこの星には十数人ほどいるらしく、それは、生命を維持するのには何の支障もない、ゲゼル人と地球人のハーフとしてはごく普通の体質なのだそうだった。

その恋心は嘘ではなく、瞬の身体の無変化は瞬の心身が氷河を拒絶しているせいではないということがわかったというのに──わかったからこそ?──瞬は暗い顔だった。
「僕……出来損ないの人間なんですね」
「なぜ」
「…………」

性交と生殖ができないこと。
それはゲゼル人としての瞬には、自らの存在理由の喪失にも匹敵する辛い事実なのだろう。
が、氷河には、それは、さほど深刻な問題ではなかった。

「抱きしめ合うことはできるだろう」
「でも……」
「この星にもいるそうじゃないか。互いに女性に対する好意を感じて、二人ともが男性に変化してしまったままの同性のカップルとか」
「僕は……氷河と同性にもなれない」
「『性別:瞬』だな。何か問題があるのか」

「ないんですか……?」
氷河に尋ねてくる瞬の声は、完全に涙声だった。
瞬は、それが──性交と生殖が──人として最も重要なことだという教育を受けてきたゲゼル人なのである。
今になって知らされたその事実に、自身の存在意義を見失うほどの衝撃を受けるのは、ある意味、当然のことだったかもしれない。

しかし、氷河は、生殖と心とを完全に切り離した次元で この世に生を受けた人工授精児だった。
そして、それ故に、心に、心という独立したものとしての価値を認める地球人だった。
「ないだろう。俺は、おまえのセックスアピールにくらくらしたわけじゃない。その綺麗な目にイカれたんだ」
「…………」
「こうして、キスもできるし」
それでも納得しきれずにいるらしい瞬の唇に唇を重ねてから、氷河は瞬の耳許で囁いた。
「それ以上のこともできるぞ」
「ど……どうやって…… !? 」

思いがけない氷河の言葉に、まるで弾かれたように、瞬は大きく瞳を見開いた。
瞬はどうやらこれまで、人間にとって最も大事な務め・人間にとって最も大きな喜びだと教えられてきたものを、氷河に与えることのできない自分に引け目を感じて、自身の心を言葉で氷河に伝えることさえできずにいたものらしい。

「今夜、教えてやる」
少しばかり やましい気持ちを抱いて そう告げた氷河に、
「本当にそんなことができるの……!」
瞬が、期待に輝くまっすぐな眼差しを向けてくる。

それ・・が可能なことなのだと瞬に教えてやりさえすれば、瞬の不安と引け目は消滅し、瞬は氷河の幸せで素直な恋人になってくれそうだった。
そう悟った氷河は、その夜、目いっぱい気を引き締めて、瞬とのそれ・・に挑んだのである。






【next】