その夜、氷河は、瞬に告げた言葉通りにそれ・・を実行した。
特に不都合はなかった。
瞬との交合で、氷河は十分すぎるほどの快感を得られたし、それは瞬も同様だった──氷河にはそう見えた。
好きで好きでたまらない相手を抱き、抱かれているのだから、ごく当然の帰結である。

「おまえの……緑色の髪ばかり見ていたせいで、無駄な時間を過ごしてしまったようだ。俺たちは、もしかしたら、出会ったその日から、こうやって過ごすことができたかもしれないのに」
互いの身体を知り尽くしたあとで、氷河は瞬の肩を抱き寄せ、少しばかりの後悔を込めて、そう呟いた。
不安が霧消した瞬は、氷河の腕の中で、恥ずかしそうに嬉しそうに頬を染めて──とにかく幸せそうだった。

「俺は外見ばかりを気にしていて──いや、おまえの髪ばかりを見ていて、いちばん大事なものを見ようとしていなかった……」
人は、言葉や態度で、自分の心を他者に伝えることができる。
あるいは、言葉がなくても、その眼差しで。
だというのに、氷河は、この星で、わかりやすく目立つ“記号”にばかり目を奪われ、肝心のものを見ることを忘れていたのだ。

「僕は……僕も、変化しない自分のことばかり気に掛けていて、氷河を見ることを忘れかけてた。黒髪にならないと、氷河に僕の気持ちは信じてもらえないって決めつけて、そのことばっかり気に病んで──」
反省の弁を口にのぼらせる瞬の瞳は、しかし、やはり幸福の色に輝いている。
この瞳だけを見詰めていれば、苦悩と苛立ちの1年を過ごさずに済んだのだと思い、氷河は今更ながらに自分の愚かさを悔やんだ。

瞬はいつもその眼差しで、仕草で、自分の心を訴えてくれていたのに、氷河は長いこと それに気付かなかった。
否、視界には入っていたのに、見ていなかったのだ。
性的魅力を感じていることが、愛情を抱いていることと、完全に同じことだとは限らないのに──である。
恋愛において──まさしく、恋と愛において──最も大事なことは、おそらく、自分が自分の心に、その人と人生を分かち合う必然性を感じているかどうか──なのだ。

氷河は、瞬に、それを感じていた。






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