やっと自分の本心に辿り着き、これですっきりできるかと思いきや、あいにく氷河は、せっかく辿り着いた己れの本心を、どうしても受け入れることができなかった。
一輝が瞬の側にいることを望む自分──などというものは、氷河には、それこそ“恋するオトコ”として認められない代物だったのである。

自分という男が理解できず、氷河が混乱し始めたところに、突然氷河の混乱の素が駆けてくる。
「星矢、見て見て!」
瞬は、籐でできた大きな籠と、氷河が見慣れた屈託のない笑顔を、彼の仲間たちの前に運んできた。

恋するオトコの複雑かつデリケートな心情などどうでもいい星矢が、瞬が手にしているものを見て色めきたち、威勢のいい歓声をあげる。
「おおおおおっ、瞬! それはもしかして!」
「厨房のおばさんに、分けてもらったんだ。徳島名産鳴門金時・無農薬ふぞろいサツマ芋3キロ! これ、みんなで──」

瞬がその先を言う前に、星矢は、腰掛けていたソファから勢いよく立ち上がっていた。
「おっしゃ! 俺、裏庭に枯葉集めとくな。紫龍も手伝ってくれよ。俺、枯葉を撒き散らすしかできないから」
「ああ、そうだったな」

その辺りの手際に関しては、実は、紫龍も星矢と大して変わらなかったのだが、幸い紫龍は星矢と違って、小宇宙だけでなく自分の手を使う術を心得ていた。
彼は、氷河と瞬を横目でちらりと一瞥してから、後も見ずに城戸邸の裏庭に向かって駆け出した星矢の後を追って、ラウンジを出ていった。






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