「…………」
「…………」
もはや瞬に確認をとる必要もない。
氷河は犯罪を犯したのだ。

「うむ。ともかく、それで瞬が怒って、二度とこんなことをしないようにと俺に言ってきたんだ。俺はそうできる自信がなかったから、正直に、約束はできないと答えた。そうしたら、瞬の奴が、今度こんなことをしたら、あのことをバラすと脅してきた」
氷河には、自分がとんでもない犯罪行為に手を染めたという意識が皆無のようだった。
そして、氷河が瞬に握られている弱みというのは、どうやら傷害罪や強制わいせつ罪の類ではない別の何からしい。

男同士であろうがなかろうが、なぜかこの手のトラブルの公表は、押し倒そうとした側よりも押し倒されかけた側の人間の方が──つまりは、被害者の方が──恥辱と不利益を被ることが多いのが現実なのだろう。
その事実を公表したくないのは、氷河よりも瞬の方なのだろうことは、星矢と紫龍の想像に難くはなかった。
実際、氷河は、それを恥とも罪とも思っていない様子で、仲間たちに強制わいせつの事実を報告してのけている。
それは、氷河への脅しの材料にはなりえない──のだ。

「あー……。ってことは、おまえが瞬に握られてる弱みってのは、傷害罪や強制わいせつ罪とは別件なのかよ?」
尋ねる星矢の口調には、恥知らずの仲間を恥じる気持ちと、そこはかとない疲労の色が見え隠れしていた。

「瞬のネビュラストームで、全身を打撲したのは俺の方だ」
「瞬を襲ったのなら、そんなの当然の結果だろ。で、だから、結局、おまえが握られてる弱みってのは何なんだよ?」
「大っぴらに言えることじゃないから、俺はこうして瞬の言いなりになってるんだろうが」
「そりゃそーだろうけどさぁ……」

強制わいせつ未遂の事実を平気で仲間に公言できる氷河が、隠そうとするほどの弱み。
それがどういうものなのか、持てる想像力の全てをフル稼働させてみても、星矢と紫龍には見当がつかなかった。






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